【2021年空総監受験】出題パターン3ーアカデミック系問題の解き方

昨日に引き続き、問題の解き方を解説したいと思います。

今回の記事では、出題分析7パターンのうちの”アカデミック系問題”について解説します。

  1. 実務実績問題
  2. コラム問題
  3. アカデミック系の問題    <<== 今回はココ
  4. 知識系の問題
  5. 行政課題解決問題(パワポ)
  6. タイムリーな課題解決問題(パワポ)
  7. その他の問題(パワポ)
目次

出題例

以下は、アカデミック系問題の出題例(H28年度問2)となります。

空総監試験H28年度問2より引用

この問題では、ワードで2ページ(1ページ36行・40文字、合計約2,000〜2,800文字)の答案を作成します。

アカデミック系の問題で問われていること

この問題では、日々の学習とその成果について具体的な説明が問われています。
技術士の責務の一つ”資質向上”を確認する問題だと思います。

ただ、設問では学会や書籍といったキーワードがありますが、学会に加入していなかったり、雑誌や書籍よりもインターネットを使った情報収集をしているなど、必ずしも設問に沿った答案を作成できない方も多いと思います。
問題で問われているのは、”日々の学習”と”学習成果”に関する具体的な説明ですので、安心して日々の学習方法を書いていけばよいと思います。

また、この問題は出題パターンがほとんど決まっていますし情報の整理に思いのほか時間がかかりますので、事前の準備が重要な問題ともいえます。

答案例

答案例は以下のようになります。

受験番号:21−006 氏名:高本 啓司

設問1 空間情報技術の研究・技術開発動向の把握・学習方法
 私は、電機メーカーの技術者として警察向けの通信指令GISの開発と運用に従事している。さらに、会社の許可を得て個人の技術士事務所を兼職で運営している。
 現在、私が担当している警察業務では自社製のGISエンジン(製品名:...)を採用しており図形データは専用の形式で描画部分も内製している。このことはGISの内部に関する技術力が必要な反面、一般に普及しているGISの利用やデータ交換などには不利に働きがちで、この点を補うことを重視して最新技術の把握や学習を行っている。

ア 空間情報技術の研究・技術開発動向の把握方法
 私は、空間情報技術の研究・技術開発動向について、定期・不定期に分けて情報収集・把握している。
定期的な方法は、国土地理院が発行する地理院広報や地理院時報、ESRIジャパン社が定期的に更新する最新事例紹介、GISを専門とする方のTwitter、日本経済新聞の企業欄や産業欄、インクリメントピー社やESRIジャパン社などの同業者からのメーリングリストなどで情報を収集している。
 次に、不定期な方法は同業者からの情報交換や展示会が中心となる。具体的には、業務上の取引先であるZ社やS社、N社との情報交換の中で最新のソリューションや研究成果などの情報交換を行っている。展示会については、年1回開催される“G空間Expo”や“地図展”、警察関係の“保安電子通信協会セミナー”には参加し情報収集している。
 このような情報収集の結果、興味ある情報があれば、主にインターネットを使って情報や論文、事例などを収集しより深い知識を取得している。

イ 学習方法
 次に、学習方法について述べる。先程説明した方法で情報を収集し興味ある情報を選別してより深い知識を取得した後に、現在や将来の業務に直接役立ちそうな情報があれば、これを学習し応用できる程度にまで学習している。具体的には、QGISやMapWinGIS、OpenJUMPといったオープンソースのGIS、同様にPostGISやSpatialiteといったオープンソースのデータベース、GDALなどの空間情報処理ライブラリなどを、JavaScriptやPythonといった言語によるプログラミングを通して検証し学習している。
 実例を1つ挙げると、オープンソースGISの学習を開始した当初は、“入門Webマッピング”という書籍を購入し全体像を把握した。この書籍には、前述のGDALをはじめMapServerやPostGIS、Grassなどについて実例を交えて詳細に紹介されている。私の場合は、この情報をもとに検証用のデータをG空間情報センター上に公開されている自治体のオープンデータや政府の統計GIS、国交省の国土数値情報などをダウンロードし、Python言語を使って加工してPostGISへ投入、そのデータをMapServerとOpenLayersを使って地図表示することで、概ねWebGISの仕組みを学習し理解することができた。

設問2 最近注目する新技術について
 私が最近注目する新技術は、インターネット上でベクトル地図データを配信し表示する技術である。この技術は、米国Mapbox社が中心となって仕様が策定されオープンソースという形でライブラリなどが流通している。以降に詳細を説明する。

ア ベクトル地図データの仕様と配信
 地図データはMapbox社が定めたMVT(Mapbox Vector Tile Format)形式がデファクトスタンダード化しつつある。MVTは、地図の図郭をGoogleMapと同じWebメルカトルで投影されたXYZタイルを採用し、各タイル内に収容される図形をGeoJSON形式の表現内容をGoogle社が仕様化したProtocor Buffersを用いて符号化している。さらにその情報をGZIP形式に圧縮することで、元のGeoJSONの1/10以下にまで圧縮させてインターネット上をベクトル地図データが流通しやすくしている。
 また、MVTのままでは地図の1タイルが1ファイルとなってしまうためファイルの数が大量となってしまう。これを取り扱いやすくするため、複数のMVTを1つのデータベース(SQLite形式)に収容できる。これは、MBTILESと呼ばれる仕様でMapbox社により策定された。
 次に地図データの配信であるが、MVTであればWebサイトに配置するだけで配信できるが、MBTILESの場合は配信専用のサーバーソフトウェアが必要となる。何種類かのオープンソースが存在するが、使い勝手が良く多機能なのはMapbox社のTileServerGLである。これは、JavaScriptで作成されておりApacheやNGINXなどのWebプロキシと組み合わせて使用するのが一般的である。

イ 地図データの表示
 ブラウザへの地図表示については、Mapbox社からMapboxGLJSと呼ばれるJavaScriptによる描画ライブラリが提供されている。また、iOSやAndroid用、Qt(キュート)と呼ばれるWindows、Mac、Linuxで使用可能なネイティブライブラリもオープンソースで提供されている。MapboxGLJSにおいては、ブラウザに実装された3Dライブラリ(WebGL)を使用することで、非常に高速な3D表示が可能となる。
 また、表示スタイルの編集にはMaputnikと呼ばれる専用のスタイルエディタもオープンソースとして提供されている。

ウ この技術に注目する理由
 この技術に注目する理由は、現在の担当業務で使用している自社製GISエンジンにこの技術を適用することで、QGISによるデータ加工やブラウザによる地図表示、3D地図表示など、これまで投資できずに実現できなかった機能を拡張することができる。具体例を挙げると、QGISの様々な編集機能を使って警察署管轄データの編集や地理的な分析が可能となることや、3D地図による通報場所特定など、お客様へ提供する価値の拡大が期待できるからである。

以上

上記答案は、ページ数は2ページ、約2,100文字となります。

答案作成のポイント

答案作成のポイントは以下の3つです。

  • 学習の目的と期待効果を書く
  • 情報源や製品名を具体的に書く
  • 注目する技術はなるべく新しいものとする

以降、個別に説明します。

学習の目的と期待効果を書く

1つ目のポイントは、学習の目的と期待効果を書くことです。
さらに言えば、目的が実際の担当業務と関連づいているとよりよいと思います。

学習の目的と期待効果を書くことで、答案全体の流れや軸を作り、文章としての一貫性や安定感が生まれます。

答案例の冒頭では、以下のように学習の目的を書いています。

現在、私が担当している警察業務では自社製のGISエンジン(製品名:…)を採用しており図形データは専用の形式で描画部分も内製している。このことはGISの内部に関する技術力が必要な反面、一般に普及しているGISの利用やデータ交換などには不利に働きがちで、この点を補うことを重視して最新技術の把握や学習を行っている。

ちょっと微妙な書きっぷりではありますが、学習の目的は”担当業務では一部の製品に偏りがちなGISに関する知見を広める”(弱点の補完)ということになります。

そして、最後の章で以下のように学習の期待効果述べることで、”弱点補完のための学習” -> ”お客様価値の拡大”という答案全体の流れや軸を作ることができます。

お客様へ提供する価値の拡大が期待できるからである。 

情報源や製品名を具体的に書く

2つ目のポイントは、情報源や製品名を具体的に書くことです。

以下のように具体的な情報源のない記述では、採点者はボンヤリとした学習イメージが湧きません。

(具体的な情報源のない記述例)GIS関連のWebページやSNS、新聞記事やメールといった方法で情報を集めている。

答案例では、以下のように具体的に書くことで、学習イメージが明確に伝わりますし、”書籍以外でも工夫すれば充実した情報収集ができます”という点もアピールできます。

国土地理院が発行する地理院広報や地理院時報、ESRIジャパン社が定期的に更新する最新事例紹介、GISを専門とする方のTwitter、日本経済新聞の企業欄や産業欄、インクリメントピー社やESRIジャパン社などの同業者からのメーリングリストなどで情報を収集

注目する技術についても同様に、製品名などを具体的に書くことで学習成果が伝わりやすくなります。

ブラウザへの地図表示については、Mapbox社からMapboxGLJSと呼ばれるJavaScriptによる描画ライブラリが提供されている。また、iOSやAndroid用、Qt(キュート)と呼ばれるWindows、Mac、Linuxで使用可能なネイティブライブラリもオープンソースで提供されている。MapboxGLJSにおいては、ブラウザに実装された3Dライブラリ(WebGL)を使用することで、非常に高速な3D表示が可能となる。

注目する技術はなるべく新しいものとする

3つ目のポイントは、注目する技術はなるべく新しいものにすることです。

なるべく新しい技術を書くメリットは、単純に学習の成果として新しい技術の方が説得力がある点と、採点者が未知の技術であれば答案に多少の間違いがあっても減点となるリスクが少ないという点となります。

採点者に技術的な内容が十分伝わらなかったとしても、”最新技術の習得をがんばっているんだ”という点さえ伝わればよいと思います。

答案例では、最近普及しつつあるベクトルタイルによる地図配信技術について書いています。

地図データはMapbox社が定めたMVT(Mapbox Vector Tile Format)形式がデファクトスタンダード化しつつある。MVTは、地図の図郭をGoogleMapと同じWebメルカトルで投影されたXYZタイルを採用し、各タイル内に収容される図形をGeoJSON形式の表現内容をGoogle社が仕様化したProtocor Buffersを用いて符号化している。さらにその情報をGZIP形式に圧縮することで、元のGeoJSONの1/10以下にまで圧縮させてインターネット上をベクトル地図データが流通しやすくしている。

まとめ

今回は、アカデミック系の問題について答案例を解説しました。

この問題は、どんな学習をしているのかという点が具体的に伝えることが重要ですが、基本的には正解のない問題なので、答案は作成しやすいと思います。
とにかく具体的に書くということだけを注意すればよいと思います。

また、アカデミック系の問題には以下のような過去問もありますが、私はこの手の問題が試験の趣旨に沿っているのか微妙と感じており出題の可能性が低いと判断したため事前の準備を見送りました。

  • 空間情報技術に関する市民講座の企画・概要(H29問2)
  • 技術者教育資料の作成(H23、24、25問2)
  • 講演資料の作成(H26、27問3)

時間のある方は準備しておいても良いでしょう。

次回は、”知識系の問題”を解説します。

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