見積品質向上に向けた留意点と組織的な取り組み

今回は、下記資料(pdfです)から見積の向けた精度向上に向けたヒントを読み解いていきたいと思います。

資料の内容

この資料は、日本ユニシス株式会社がグループの技術的成果を紹介するために発行する「ユニシス技報」の第99号(2009年2月発行)に掲載された技術レポートです。
本レポートの趣旨を確実にお伝えするために、要約(Abstract)の一部をご紹介します。

ソフトウェア開発の見積りが適切にできて初めてプロジェクトの成功につながることは言うまでもない。見積品質向上のためには、プロジェクト運営の中ででの見積変動要因のコントロールや組織としてのソフトウェ開発プロセスの成熟度が極めて重要である。見積の時期によっては、最終的な規模に対して誤差があることを前提にした予防策の実施が必要である。…. (中略) …. また、変動要因をコントロールするうえでは要件管理やリスク管理、課題管理等、プロジェクト管理の確実な実施や契約によるリスク回避を行っていくといった多面的なアプローチが重要である。見積品質向上のためには、組織としての見積結果を検証する体制や見積実行結果をフィードバックする技法やツールを継続的に改善する仕組みが機能する必要がある。

”見積品質向上に向けた留意点と組織的な取り組み” ユニシス技報 99号(2009.2) 新井秀夫

内容は、見積品質向上に向けた留意点(2章)と題してソフトウェアの見積を行う上での(精度を上げるための)留意点がCOCOMOモデルを中心に述べられています。この章は、一般論といってもいいでしょう。
続く第3章が本題で、ユニシスグループで行われている見積品質向上に向けた具体的な取り組みが示されています。

見積品質向上に向けた具体的な取り組み

では、ユニシスグループで行われている具体的な施策を見ていきましょう。
本レポートでは、ユニシスグループでの組織的な取り組みには以下のようなものがあると示されています。

  1. 第三者による見積レビューの徹底
  2. 標準見積技法・手順の確立と継続的な改善
  3. 実績値をを蓄積し次回開発での見積りへのフィードバック
  4. 実践的な見積教育の実施

以降に、チェックプロセスと教育について資料を要約します。

第三者レビューの実施

本資料では、組織として見積品質を向上させるためには、第三者が見積を評価・検証するプロセスが必要であると述べています。この取り組みを”見積の第三者レビュー”と定義します。
ユニシスでは、見積の第三者レビューを下記3段階で実施している示されています。

  • 第三者見積レビュー
  • 原価照査レビュー
  • 提案レビュー

1.第三者見積レビュー
第三者見積レビューでは見積りの妥当性や実行可能性を客観的に検証し、見積作成者や営業部門にフィードバックする。
見積作成者は、(おそらく見積とは別に)共通の書式で審査用の資料を作成して第三者レビューに臨む。レビューでの重要なチェック項目は、以下の通り。
 1.見積前提条件のやリスク対策の妥当性
 2.生産性の根拠
 3.見積プロセスの妥当性および並行見積(おそらく相見積)の実施
 4.プロジェクト体制とスケジュール(期間)の妥当性
 5.役割分担についてお客様との認識のズレの有無

2.原価照査レビュー
本資料では、第三者見積レビューを中心に紹介されているため記載後ほとんどありませんが、PMOとは別に上位管理者が原価(および期待利益)の観点で見積りを精査するようです。

3.提案レビュー
これも記述がほとんどないのですが、営業部門や(おそらく業務やお客様の)有識者を交えて多面的に見積をレビューするようです。
この3段階を通過するとお客様に提案が可能な状態となるようです。

見積チェックプロセスの実施

前述の見積レビューとは別に、見積自体およびインプットとなる資料のチェックを行っているようです。これらを評価し、赤、黄、青の3段階で評価を行っています。
赤は見積再作成、黄色はおおむねOK、青は良好といった意味です。
更には、見積作成者に見積内容への指摘を行って次回見積作成時の精度向上といった教育的な観点でもチェックが行われているようです。

PM(見積担当者)への実践的な見積教育の実施

見積作成者が見積技法を習得するためには、工数算出モデルや工数・期間・生産性・工程比率他各指標評価できる能力(リテラシー)が必要であることから、以下のような見積教育を実施しているようです。
1.理論・技法面からの教育
・FP 値の測定方法や見積プロセス,見積支援ツールの使用方法の講習会
・生産性実績や規模・工数・工期実績の講習会
・JFPUG(日本ファンクションポイントユーザ会)主催の講習への参加
2.見積事例を基にした教育
・見積ワークショップの開催、見積支援ツール実行結果の解説や使用上の留意点等についての説明会

中小ソフトウェア企業への適用についての考察

さて、ここからが本題の中小ソフトウェア企業への適用を検討していきたいと思います。
ここまで書かれていることは非の打ちどころがなく正論ド真ん中、正しいですよね。
でも、読者の皆さんは以下のような疑問を感じておられると思います。

  • 億単位の見積・提案を前提に記載されており中小企業の現状とかけ離れている
  • 第三者レビューを厳しくすると作業効率の低下につながらないか
  • FP法は取引先から求められていないと思われる
  • プロジェクト管理と見積が混同されていないか
  • 中小企業では参考にはなるが、資金のかけ方も違い事情が大きく異なる

中小企業に適用するには

先にも述べたように、このレポートの内容はある意味大企業での費用対効果を前提に、それなりのリソース(人、モノ、金、時間)を投入して構築・運用しているものだと思います。
これをそのまま中小企業に適用するのは、無理があるというものです。
では、どうすればいいのか考えてみると、基本的にはお金をかけずに時間を掛ける方針が良いと思います。具体的に見ていきましょう。
すぐにできる取り組みは、以下だと思われます。

  • 発行前の見積をチェックシート等で評価する
  • 作成者のプレッシャーにならない程度のレビューを実施し必要であれば上層部で修正する
  • 発行した見積を蓄積する
  • 開発終了後に見積を事後評価し見積担当者にフィードバックする

まとめ

ここまで、日本ユニシスグループの取り組みを見ながら中小企業への適用を検討してきました。
ポートの内容をそのまま実践できるのは大企業の一部で、多数派の中小企業は投入できるリソース規模が異なるので、取り組みには工夫が必要となります。
ただ、レポートでも指摘されているように、見積はプロジェクトのスタートですから、精度向上に向けた取り組みが必要なのは皆さんも納得できるのではないでしょうか?